《FIAF北京会議》 ノン・キャメラ映画の誘惑

フィルム・アーキヴィストの発表というのは、いわゆる学術研究者の発表と違って、自分の関わった具体的なプロジェクトが背景になることが多い。それは復元事業であったりカタロギングであったり展覧会の実施だったりするが、共通するのは作品の分析よりも「事物に即している」ことを重んじる点。そこが刺激的なのだ。

昼間はずっと雨天。だが、雨のおかげでスモッグが明らかに改善、かえって遠くの風景が見えるようになった。シンポジウムの2日目も、フィルムに直接描くポーランドのノン・キャメラ主義者ユリアン・アントニシュ、初期ヴァルター・ルットマンの抽象アニメーション、スロヴェニア人形アニメなど新鮮な主題が目白押し。アントニシュがフィルム上に描くためのゴタゴタした機材は、それ自体が金属の彫刻のようであり、猛烈にかっこいい。また、レイノーやデメニーなど、映画発明以前の技術に遡ってアニメーションの理念的検討を促す発表も目立った。しかしここでは、アニメーションのシンポジウムなのに「ピクサー」はおろか「ディズニー」の名さえ出てこない!というアーキヴィストらしい嗜好も濃厚に見えてくる。午後は大藤信郎について私も発表、その後のコーヒーブレイクでいろんな人に声をかけられた。こういう場数を踏むことが国際的な人間関係を築くことだと改めて実感した。

昼休みには、リニューアルされたばかりという中国電影資料館の図書室を訪問。日本の雑誌では「キネマ旬報」のほかに「映画芸術」「スクリーン」「シナリオ」が定期購読されている。北京で「映芸」を読もう!

夜、宿の近所の交差点角にある屋台で串焼きを食べる。欧米人は漢字メニューしかない店には入ろうとしないが、日本人はどうにかこうにか注文ができる。街は遅い時間までカップルがいっぱい歩いている。スモッグの街は恋の街でもあったか。