2012/02/20

やっと「木村栄文レトロスペクティブ」へ出勤できた。

『鳳仙花 近く遥かな歌声』(1980年)は、日本と韓国の演歌のルーツや影響関係を探る、などと書くと堅い感じがするが、とにかく美空ひばりやら金素雲やら高木東六やら「エレジーの女王」李美子、やや酩酊気味の作家李恢成まで、木村の怒濤の取材攻勢にたじろぐばかりの72分。歌といっても、女学校の生徒斉唱から地方ごとのアリラン、往年の名歌手も出れば、屋台で酒をかっ喰らうオッチャンの唄まである。戦時下の日本が朝鮮人徴兵のために流行らせようとした歌を歌うよう木村に求められた若い歌手は、本当にうろたえていたようだった。

『桜吹雪のホームラン 証言・天才打者大下弘』(1989年)。敗戦後の国民にこよなく愛された空前絶後の名バッター、家は近所の子どもたちに開放、しかし夜は無類の遊郭狂い(置屋で早起きして素振り!)、それでいて美しい毛筆の日記をしたため続けた文才の持ち主、引退後も後進のコーチよりむしろ少年野球の指導に熱が入った。木村がこういう人を逃すわけがないとよく分かる。大下さんは好きな投手の球は打たなかった、と言ってのける関根潤三にもぶったまげた。