2011/07/23

特別上映会で、今年重要文化財に指定された『小林富次郎葬儀』(1910年)。歯みがきのライオンの創業者の葬儀記録だが、画面の隅から隅まで史料価値がすこぶる高い。それも画のクォリティがとても高いからで、解説者の同僚も語っていたが「古いフィルムは画質が悪い」なんて間違っても口にしてはならない。保存がいいか悪いか、ただそれだけの問題である。フィルムは神田の大通りを行く長大な葬列をフィクスで撮ったものだが、馬に引かれた霊柩車が登場した瞬間、車を追って一瞬だけキャメラが左にパンするのに目を見張った。日本映画最初の意図的なキャメラ移動はいつなのだろうか、と考えた。

『テザ 慟哭の大地』(ハイレ・ゲリマ)@イメージフォーラム。医師になろうと留学していたドイツから、重傷を負ってエチオピアへ帰国した失意の男。村では政府軍と反政府派の両方が、新しい兵士を求めて若い男たちを拉致していた。男は悪夢にうなされながら回想する。ヨーロッパでは黒人差別の洗礼を受け、国では権力の尻馬に乗った連中から迫害され、途上国のインテリの絶望を凝縮したような半生を送っていた。権力安定のためのインテリ殺し、エチオピアもそうだったか。語りが太く、悪人も含めて登場人物に説得力があるので140分は長くない。

ツール第20ステージは個人タイムトライアル。総合順位を争う選手にとっては、明日最終日のシャンゼリゼは儀式的なもので今日が事実上の最終決戦。エヴァンスが57秒差を跳ね返してアンディ・シュレクを逆転、初の覇者となることがほぼ確定した。ここ数年、エヴァンスは不運に見舞われることを運命づけられたような選手だった。今年も嫌なところでパンクの憂き目にあったが、それを吹き飛ばして勝ったのだから何も言うことはない。自転車の神様は彼にマイヨ・ジョーヌを生涯与えないと決めたわけではなかったらしい。それが分かっただけでも嬉しい。