フランス映画の野蛮時代

10月9日

観る側の体力を上回るほどの上映が毎日詰め込まれているこの映画祭、体調管理もなかなか大変である。それでも60歳を超えていると思われる人々が、午前1時まで上映を観ていたかと思うと翌朝9時には平然と席に座っていたりするから、西洋人の基礎的なパワーは違うなーと思う。

今日の午前は会場が地元の映画館「チネマゼロ」に移っていて、まずロバート・フラハティ『モアナ』(1926)に入ってみた。バージョンは1980年にモニカ・フラハティが製作したサウンド版だが、残念にもデジベータ上映。テレシネの質が悪い上に、イノシシ狩りの後、魚とりのシーンで画面が紫色になったのちすぐ暗転し(なぜか星空のように白い点がいくつか見える)、効果音だけが聞こえる…という状態に。当然ながら上映は中断となり、『モアナ』なら何度か観てるしもういいや、とぞろぞろ会場を出てゆく人々の一人となった。小松先生や「サード・シネマ」のキース・ウィゾールさん、松竹特集コンビ(アレクサンダー&ヨハン)とお茶をしてから、出直して清水宏『東京の英雄』(1935)へ。充実の一本ながら、これまでの大河メロドラマに慣れてしまうと64分は短いぐらい。その後、日本映画史研究者だらけのランチになるが、日本語の自在な外国の方がこれだけ並ぶと壮観。今日は日差しが強く、テラス席なので日焼けした。

テアトロ・ヴェルディに戻る。「フランス初期喜劇俳優」特集は、この第6プログラムですべて終了。これらのプログラム、よく考えると、芸人の名前をアルファベット順に並べて全リストを6つに分割しただけ。『ジゴマ』のパロディなのかゴーモン社のジゴトという芸人は最初こそ探偵映画だが、後はどんどんジャンルを逸脱。さすがにゴーモンは予算があるのか、破壊ギャグも豪快でよろしい。この特集のいい点は、初期フランス映画の野蛮な魅力を示したところだ。子どもも平気でタバコを吸っている。

ピアニストのニール・ブランドさんに再会。1歳の息子さん(彼の公式サイトに写真あり)のために日本の高級お菓子をプレゼント。そしてクロージングは、ウィリアム・ウェルマン『つばさ』(1927)の、カール・デイヴィス作曲、オーケストラ・ミッテルエウロペア演奏による上映! フル・オーケストラ上映を体験するのは初めてだ。イギリスのチャンネル4による復元プリントだが、ニールさんによれば、チャンネル4出資の映画復元は1992年から1999年までの8年間に毎年一本ずつ行われていたという。今はもうそんな予算はないそうだが、日本にもそういうテレビ局はないもんでしょうか。『進軍』を『つばさ』と比べちゃいけない。しかし改めて『つばさ』を観ると、蒲田の人々がどれだけこの映画に憧れたかは分かる。上映後、スクリーンにウェルマンの肖像写真が投影された。それを指し示すデヴィッド・ロビンソン氏。ただ拍手あるのみ。

さてこの映画祭、フィルム上映だけかと思いきや、上記のとおりフィルム以外の上映が結構あった。上映中に携帯電話を覗く困った人が案外いる。新築したこのヴェルディ劇場は、オペラには良さそうだが、映画を観るにはかなり向いていない。壁が白いのも良くないし、スクリーン全体を見渡せない席がかなりある。特に3階席の大半と4階席は絶望的かも。それもポルデノーネ映画祭のもうひとつの印象。