ポルデノーネの海底王

※ここから第29回ポルデノーネ無声映画祭日記です。

10月2日

正午過ぎ、乗り継ぎ地のローマから空路でヴェネチアに到着、映画祭スタッフのお迎えで高速道路(アウトストラーダ)を一時間ほどぶっ飛ばしてポルデノーネへ。アリタリアのフライトでは、機内テレビの番組表に驚いた。『フィラデルフィア物語』などのハリウッド・クラシックスや、イタリア映画史の名作がいくつも並んでいる。フェリーニのドキュメンタリーまで…。「機上のチネテーカ」だそうで。

土曜午後のポルデノーネは、なかなかの陽気も手伝ってか人口5万人の町にしては活気がある。イタリアでは若者はあまり都会に出てゆかないのだろうか。ホテルのすぐ向かいが会場のテアトロ・ヴェルディ。このポルデノーネ無声映画祭で日本特集が組まれるのは3度目だが、今回は「松竹の三人の巨匠」特集と題して牛原虚彦島津保次郎清水宏のサイレント作品が紹介される。夕方、この特集のトップバッターとなった映画は清水宏の『港の日本娘』(1933)。爽やかなオープニングにしてはものすごく暗い話で、実はそこがこの映画の本質なのだが、むかしフィルムセンターにも来てくれたアントニオ・コッポラさんのロマンティックな伴奏でやや中和された感じもする。出てジェラートを食す。

さて、初日の晩のオープニング上映は『キートンの海底王』(1924)。市長さんのご挨拶もあり。船上と海面と海底という上下間の運動に目を奪われるブラボーとしか言いようのない一本。デジベータ上映だったのが少し残念だけど。その前座には、最近ドイツ語版が発見されたイギリスの短篇喜劇『トニック』(1928)。困り者のおばあちゃんの介護に雇われたズボラな家政婦の話。誇り高きナンセンスに満ちた英国流ギャグセンスって、この時代でもはや充分発展しているのだな。つーか、この監督、のちにスペイン内乱を撮りに行ったアイヴァー・モンタギュじゃないの…。

今回は「ソビエト映画の三人の仕事」特集もあり、深夜の回はアブラム・ローム『裏切者』(1926)。「無声時代ソビエト映画ポスター展」のおかげでポスターだけ見覚えがあるものの、映画は観たことなかったので逃せないと出発前から思っていた。ほとんどキワモノじみたセットデザインに驚く。そして、時差ボケに打ち勝って見入ってしまったのがピエール・シュナール『パリ・シネマ』(1929)。デブリー社のパルヴォL型撮影機の製造工程が映ってるなんて、ラディスラス・スタレヴィッチのアニメーション製作風景なんて、こりゃ眠ってる場合じゃない。

明日は世界から集まった映画の学生に講義をする日なり。