ピレネーの泳者

昨日観た映画。『アルフレッド・ナカシュ、アウシュヴィッツの泳者』@シネマテーク・ド・トゥールーズ(大ホール)。「ミディ=ピレネー地方の映画」という地元ならではの定期プログラムの一本である。ジャン・ヴィゴの映画でも知られる水泳選手ジャン・タリスに憧れて競泳界に進み、ベルリン五輪で優勝、1941年にはバタフライ(当時は平泳ぎと未分離)の世界記録を達成するも、ユダヤ人として家族ごとアウシュヴィッツに送られ(監視兵の目を盗んで一度だけ収容所内の溜め池で泳いだという逸話あり)、妻子を失いながらもどうにか生還し、戦後はトゥールーズに移住して活躍したという人物をめぐるドキュメンタリー。ゴーモンとパテのニュース映画がふんだんに使われている。ナターシャ・ローラン館長の紹介に続いてナカシュの弟さんや監督がご挨拶、質疑応答も活発であった。この街では市営プールも彼の名を冠しているほどで、「地域に根ざした上映」が実地で感じ取れる機会だった。

午前はシネマテークの図書室で、映画雑誌の管理と公開の実際について調べる。ここでは雑誌の合本をほとんどしない。閲覧希望があればボックスごとそのまま出す。それほど閲覧の頻度は多くないのだろう、これはこれでかっこいい。ここの強みはフランスの地方映画雑誌だ。パリでは収集の追いつかない南西部(中心地はボルドー)の雑誌がかなりあるのは、レイモン・ボルド自身の収集の成果でもあるが、彼がいかに地方在住のコレクターと深い関係を結んできたかも物語る。彼はダテにラングロワと喧嘩したわけじゃないのだ。

午後は、宿に戻ってメールの回答など。夕方になって市立ポスター美術館へ行く。とっても小さな所だが楽しい。商品広告で有名だが1970年代ブレッソン(『湖のランスロ』他)も手がけたレイモン・サヴィニャックマルセル・パニョル映画で知られる人懐っこい絵柄のアルベール・デュブーなど、映画に関わってきたポスター画家(AFFICHISTE)も少なくない。帰りに、超おしゃれな左翼の本屋(こういうのニホンにはないです)があるので入ってみたら、書店スペースの奥に超かわいいカフェ・レストランが…。したたかですね。さすが亡命スペイン人を受け入れたこの土地だけあって、スペイン内乱関連の本が充実している。思わず、1939年の亡命者たちをテーマにした写真集(フランス語&カタルーニャ語)を買ってしまった。恥ずかしながら、スペイン内乱の共和主義者たちは17歳だった私の情熱の一つでした。