パリの道の上セーヌは流れる

ジュ・ド・ポム美術館で『アルベール・カーンの撮影技師たちが見たパリ 1913-1928』。先に書いたカーンの膨大な記録フィルムから、パリに関する映像を1982年に編集して88分にまとめたもの。「ドキュメンタリー」でも「トラヴェローグ」でも「ニュース映画」でもない。街角。建設と解体。イベント。災害。政治運動。子どもたち…。個々に日付と撮影場所が明記された、まさにナマの映像の集積である。パリ中を水浸しにした1924年の洪水の光景に息を呑んだ。撮影速度が修正されておらず、恣意的な効果音や80年代前半らしい甘ったるい電子音楽が付された版で、しかも現在は上映可能なプリントがない(!)ためビデオ上映だったのだが、それでもこの世界網羅的な視線はフレデリック・ワイズマンの遥かな先駆だったと思えてくる。

カーンとて、18世紀にディドロダランベールがいて、19世紀末にマトゥシェフスキ(映像記録アーカイヴを最初に発案した人)がいたからこそ生まれた人物だろう。映画の使い道がまだ定まっていない時代のことを考えるのは刺激的だ。