その名はロドルフォ

トリノ映画博物館は、モーレ・アントネッリアーナという市内全体を見渡せる高い塔の中に作られており、展望台直行のエレベーターもある。これを東京に当てはめてみよう。フィルムセンターに行ったら、窓口で「展示室だけの券ですか? それとも東京タワー展望台入場券つきの券ですか?」と聞かれるようなものである。違うか…。

教育事業担当のパオラ・トラヴェルシさんに、改めて博物館の概要を説明していただいた。歴史研究とディズニーランドとシネフィリーをごった煮にする、という発想に改めて脱帽。とりあえず良さそうなものは何でも詰め込んでおく、がイタリア流でしょうか。一つ残念だったのは、先週までやってた企画展「フランチェスコ・ロージ展」が終わったばかりで、次の「ロドルフォ・ヴァレンティノ展」(ここでは「ルドルフ」ではない!)を控えた展示替えの時期だったこと。その後、写真担当のロベルタ・バザノさんに博物館の写真コレクションのことを伺うが、興味深かったのは創立者アドリアーナ・プローロという人の立ち位置である。86万枚ある写真のうち、映画関係は75万枚で、残りの11万枚は映画以前の写真史に属するプローロ旧蔵のものだという。道理で「映画博物館」にしては19世紀写真の機材類がたくさんあったわけだ。これに1990年代に入手したジョン・バーンズ旧蔵の幻燈機コレクションを加えて、ここのプリシネマ系機材はかくも豊かになったのである。ただし、安定した保存場所がないのが悩みの種らしい。

ここも専ら学究の徒として訪れたわけだが、資料部門を統括しているドナータ・ペゼンティさんに「せっかくですからピエモンテの料理を試していってください」と言われると弱い。ここは美食で鳴らすピエモンテ州の中心都市である。グルメの知人Kさんも、ご自身の経験に基づくトリノのうまいレストランリストをわざわざメールで送りつけてくれた。てなわけで美食とは程遠い私も、そのリストでいちばん「庶民的」と評されているポルタヌオーヴァ駅そばの店に行ってみた。ちょうど、野菜不足のわが現状に適した郷土料理があった。バーニャ・カオダという前菜は、にんにく風味のどろっとしたソースにいろんな生野菜をディップするというもの。このソース、アンチョビの味もするけどどうやって作るんだろう。実は、Kさんからは白トリュフのパスタを食うべしと言われていたが、スライスして振りかけるだけでパスタの値段が30ユーロ変わるという噂を聞いて即座に遠慮。でも、ええものを食った。

ところで、土曜日(21日)の朝日新聞夕刊の文化欄に私の書いた記事が出る予定です。よろしければご一読を。