奇跡の猫

こっちでは男女とも同じ美容室に行くのが当たり前だが、わざわざ男性専用の理髪店をネットで調べて行ってみる。こういうお店、昔は多かったが今は消えかかっているそうだ。とはいえ、行ってみると店は新しくて腕もグッドだった。でもって、久々にルーヴルも行ってみた。昔行ったがもうほとんど記憶にないので。学生時代に阿部良雄先生に教えていただいたことを必死で思い出しながらフランス絵画史をたどる。今回の収穫はシャルダンジェリコーかな。

ジュ・ド・ポム美術館で働くテリー小山内さんのお誘いで、"L'AUTRE COTE"(反対側)@パリ日本文化会館。『アデルの恋の物語』や『アメリカの夜』など70年代以降のトリュフォー作品、そしてモーリス・ピアラフィリップ・ガレルセドリック・カーンなどの作品も手がけている編集者ヤン・ドゥデさんが監督したビデオ・ドキュメンタリーである。このヤンさん、実はニッポン大好きおじさんで、編集助手として日本の方を養成されているほどのパッションの持ち主。それにしてもこのビデオ、東京や大阪や四国をめぐりながら車窓や宿や旅先で出会った人々を撮っているだけで、どう見ても「観光客の思い出ビデオ」でしかない。何を見てもうれしいうれしい、である。だが「うれしいうれしい」自分もキャメラの被写体であり、その狭間からユーモアがたびたび湧き出ている。旅館の広間で朝飯を食べている自身と玄関から出てゆくお遍路さんのカットバックの後、そのモンタージュの種明かしをしてしまうのは編集者ならではの茶目っ気か。後半で、奇跡のように演技の上手な猫が出現する。これだけは見てもらわないと分からない。山形映画祭で上映されるといいなあ、と独り言。会場にアラン・ギロディ監督がいたらしいが誰だか分からなかった。

上映終了後、小山内さんや角井誠さん、映画編集の渡辺純子さん、『TOKYO!』撮影通訳の松島さんらとカフェで雑談、さらに一部は韓国料理店へ転じてサムギョプサルなど。これだけの業績があってしかも日本と関係の深いヤンさんがちゃんと日本で紹介されていないのはおかしい!という話題から、今後のフランス映画研究のあり方、フランスにおける日本映画の現在、シネマテークの客層、しまいには入江たか子石田民三へとテーマは拡大して夜は更けてゆくのだった。

ところで「恵比寿映像祭」がもうすぐ始まります。もしよろしければ私の監修した「科学映画の愉しみ」というプログラムにご注目ください。この映像祭、土本典昭監督のテレビ作品『日本の教育1976 少年は何を殺したのか』も上映されるようですね。観たかったのに…。