クレープとサンディカリズム

今日もサン=シール保存庫へ。まずフランソワ・ラフォールさんから、CNCアルシーヴ、シネマテーク・ド・トゥールーズと3機関で共同運用しているフィルム用データベース「リーズ」の解説を受けるが、質疑応答をしたらもう昼食の時間。さすが独立国だけあってここには台所があり、今日はニホンからお客さんもいるようだし、とクレープを焼く手はずが整っていて、全員で大きなテーブルを囲んで和気あいあいとクレープやワッフルをほおばった。フランス人の食事中の話題は結局食べ物のこと、とは聞いていたが今日はまさにそれ。私にはあまり理解できないレバノン料理(ファラフェルは分かったけど)についての熱弁が繰り広げられた。

午後、フィルム検査室へ行くとフィリップ・アズーリさんがいた。フランスで最もアクティヴな映画批評家のひとりであり、来日もされたフィリップさんのもう一つのお仕事は、シネマテークのフィルム調査である。「アビ(東京日仏学院の坂本さん)やマサヤ(中原昌也さん)だって僕が日頃はこういう仕事をしてるなんて知らないだろうね、パリにいる友人連中でさえ仕事中の僕は見てないから」。今日彼が取りかかっていたのは、レバノン内戦下の民衆生活を撮った16mmのドキュメンタリー。スプライスだらけの劣化プリントを扱う手際の良さに感嘆。画面を指さしながら「この映画は撮影時期がはっきりしてないんだけど、インタビューを受けているこの政治家はカマル・ジュンブラットだから、少なくとも彼が暗殺された1977年までに撮影されたはずなんだ」。批評の仕事と並行してこういう地道なドキュメンテーションもやっている彼のスタンスに、この国における映画アーカイヴの成熟を見た気がする。

あと今日は、同じ台所でシネマテーク職員の労働組合集会(サン=シール分会?)もあったりして、組織内の労使関係が急に理解できた日でもあった。こちらでは労組は事業所単位で組織されるのではなく、各自が支持する組合を決める。シネマテークでは、共産党に主要な基盤を持つ大手のCGT(労働総同盟)が第一勢力で、それに続く第二・第三勢力は社会党系のCFDTとアナルコ・サンディカリスト系のCNT。CNTというとスペイン内乱を思い出してしまうが、今でも具体的な勢力なのだと遅まきながら知るのであった。毛を逆立てた黒猫のCNTマークがかっこいい。