砦の上にわれらが世界を

起きるとまた雪である。しかし寒波の気配はなく、単に天気が悪いので雪になりました、という感じ。今日は南西の郊外にあるシネマテークのサン=シール保存庫へ行く日だが、高速地下鉄が雪で運転を見合わせていたので仕方なくモンパルナス駅へ移動して国鉄に乗る。40分ほどで最寄り駅のサン=カンタン=アン=イヴリーヌに着くが、新しい建物が多く、どこか多摩っぽいショッピングセンターもあるので、東京で言えば「南大沢」ぐらいの雰囲気か。そこからさらに車に乗せてもらってさみしい林の中へ。

かつての砦の址に建設されたこの保存庫は、時間もゆったり流れていてベルシーとは別の独立国のようである。フィルムの法的納付(DEPOT LEGAL)先と定められたCNCアルシーヴとは仕事上の棲み分けがあるので、シネマテークが保存するのは、主に配給会社やプロデューサー由来の上映用ポジと映画人からの寄託フィルムである。最近で言えばフィリップ・ガレル作品の全素材もここに収められたが、そういうあたりにはラングロワの伝統も感じられる。カミーユ・ブロ=ヴェレンス課長からここの事業の説明を受けてから各室を訪問したが、復元部門では、準備のためにちょうど『ぼくの伯父さんの休暇』の可燃性オリジナルネガ(!)をチェックしているところだった。ジャック・タチはこの映画を二度も再編集し、さらにシーンを撮り足した(船が二つに割れてサメに化けるシーン)のでチェックも大変。見学をしつつ、ユロ氏のテニス(ラケットを前に突き出してからスイング)のシーンでは画像の傷を少し指摘したので、0.001%ぐらい私も復元に貢献したわけだ。あとその隣室に珍しくネクタイの男性がいるので誰だろうと思ったら、ジョルジュ・ムーリエさんというアベル・ガンスの研究者で、シネマテークに協力して『ナポレオン』の復元のための調査をしているという。各ジェネレーションにわたる気の遠くなるような種類の素材(CNCアルシーヴの素材だけで179缶!)を比較検討してシーンの異同を調べており、その概要を機関銃のような猛烈な語り口で説明してくれた。こういう過剰な人こそ映画には大切なのだと改めて思い知らされた。