シルヴェット・ボドロ監督

アルシーヴ(ARCHIVE)という語は広義にも狭義にもさまざまに使われ得るが、シネマテーク・フランセーズの組織内では、「スチル写真」「ポスター」のような目的別の分類になじまない個人資料・団体資料を指している。ニホンだとフィルムセンターにも衣笠貞之助旧蔵コレクションがあるし、早稲田大学演劇博物館の「稲垣浩文庫」や京都府文化博物館の「伊藤大輔文庫」も該当するが、シネマテークには130以上の「だれだれ/どこどこコレクション」が存在している。

てなわけで今日はレジス・ロベールさん率いるアルシーヴ部門。貴重な資料がふんだんにあるため、オフィスのドアも職員用バッジがないと開錠が作動しないしくみ。ここでは、フランス国立公文書館の定めた文書取り扱い法に則って、鼻血が出るような映画資料が注意深く扱われている。閲覧者のお呼びがいちばんよくかかるのはどうやらトリュフォー資料らしい。シルヴェット・ボドロ資料を開けるとちょうど『泥棒成金』のシナリオが…。「監督:アルフレッド・ヒッチコック」の監督名を線で消して「シルヴェット・ボドロ」と直したヒッチコック自身のいたずら書きが見えたり。これ、別に私の特権ではありません。誰でも2日前までに頼めば見られます。映画の好きな方は、パリに行けばこういう楽しみもあることを知っておくといいかも。おとといの日記では、研究者用閲覧室を貴重書を見る場所として紹介したが、本来はこうしたアルシーヴ資料を見るための部屋。チェーザレ・ザヴァッティーニ資料をわざわざイタリアから閲覧しに来た青年も見かけて、なるほどーと思った。

近頃は科学的な文書修復にも乗り出しているが、本格的な修復はやたらと費用がかかるとのこと。名スクリプターのリュシー・リシュティグ旧蔵の『歴史は女で作られる』のシナリオ復元作業を記録したビデオ"CINEMATHEQUE FRANCAISE AU SECOUR DE LOLA MONTES"を見せてもらったが、おそらくこれは、お金をかけたのにフィルムの復元ばかり注目されるのはもったいないと思ったロベールさんが企画したものと推測。ちなみにリシュティグはシルヴェット・ボドロとともにフランス映画スクリプター界の二大巨頭と呼ばれるべき存在で、オフュルスだけでなく、ニコラス・レイの命をすり減らしたという『北京の55日』も支えた人だと聞くと涙が出そう。

この部門にはベテランの方々も多く、今日特にお世話になったのがヴァルド・クヌービュレールさん。統合前はBIFIに属していらっしゃったそうだが、もともとは1980年にシネマテークに入られている(BIFI設立は1992年)。若い頃はメアリー・メールソンが隣の席だったと聞いてまたびっくり。アルシーヴの話もそこそこに、シネマテークの非フィルム部門の歴史をその場で手書きの年譜にしてくれた。