ガザからスイスへ

自分の生存を第一に考えねばならない立場の人を別にすれば、今は誰もがガザの住民のことを考えざるを得ない時ではないか。ニホンでは「大きめの国際ニュース」でしかないが、こちらではもっと生々しい何かだ。私はこうして毎日映画のことを考えているわけだが、その目指すところと、遠くからガザを思うことは最終的には同じ場所に行き着くのだと信じている。

14時30分、シャトレー広場を出発したイスラエル軍ガザ攻撃への抗議デモはリヴォリ通りに入っていった。オペラ座前まで行くとのこと。巨大スピーカーで交互に「人殺しイスラエル」と「我らはみなパレスチナ人だ」の叫びをあげつつ、もちろんアラブ系が中心だが先住フランス人やアフリカ系も多数交えて隊列は大きくなってゆく。「サルコジも共犯者だ!」にはとりわけ大きな同意の声があがった。この手のデモの大事なポイントは、単に見ていただけの沿道の人々を隊列に巻き込めるかどうか。よく見ると、少なからぬ人が行進しながら携帯電話で「サボるな、まだ間に合うからお前も来い!」と言っている。さまざまなビラが沿道にも配られた。イスラエルに経済援助をしている国際企業のリストを載せて、これらの製品をすべてボイコットしよう、というビラが印象的。ユダヤ系のアメリカ企業が多いわけだが、フランスでは乳製品のダノンやミネラルウォーターのボルヴィックヴィッテルなども入っている。中にはガラの悪い連中もいて、周囲にユダヤ系の企業を見つけると威嚇したりも(ジーンズのリーバイスのショップは本当にガラスを割られるのかとひやひやした)。その一方、アラブ系のクラスメートに誘われてきたらしいブロンドの中学生(だと思います)もいたり、少年少女組の初々しさも目立った。

アラン・タネール『サラマンドル』@シネマテーク。世の中への悪意を抱いた不思議ちゃんに、その過去を映画のシナリオにしようとする二人の男が振り回される。ソーセージ工場の工員だったり靴屋の店員だったりするだけなのに、彼女は知らず知らず資本主義と闘っているのだ。その演技は世界でビュル・オジエにしかできないだろう。腸詰め作業をやっているだけで、チューインガムを二つに折っているだけで、雪道を歩いているだけで感動的だ。明らかに1968年を引きずっている映画だが、「団結したから勝てた」のではなく「一人だったから勝てなかった」というあたりが、作品の質とは別にタネールへの愛着になっているのかも知れない。ここから『ジョナスは2000年に25歳になる』へはもうすぐ(あ、この映画もキーワードはソーセージ)。また、見方によっては『突然炎のごとく』への68年世代からの回答とも言える。お客さんはやっぱり50代以上が目立っていた。