2014/02/02

無人地帯』(藤原敏史)@ユーロスペース1。この作品の精神は土本典昭の言葉「記録なくして事実なし」に始まり、終わる。私たちはこれまで、おびただしい量の震災映像に触れてきた。見るなり暗澹たる気分にさせられる報道映像の瓦礫の群れにも。しかし、この映画の冒頭に現れる瓦礫は、それらを遥かに上回る物質的な屹立を感じさせる。もちろん、原発の近隣で、いわきで、飯館でなされた数々の住民インタビューもあり、彼らの絶望とも諦念ともつかぬ発話には強くうたれるのだが、この映画に奥行きを与えているのはやはり“物体”として固定させられた、無人の風景や事物のエネルギーである(基本的に人間本位である『相馬看花』とは対照的)。その意味で『無人地帯』は、藤原監督の映画作家としてのメッセージ性に対峙するキャメラマン加藤孝信の仕事といっても過言ではなく、自分のテクストなのにあえて外国人女性にナレーションを任せた監督の高度な配慮もあいまって、フレームと声(そしてバール・フィリップスの音楽)が緊張感のある拮抗を見せている。360度パノラミック撮影があるからといって「美学」に流れた映画でもない。劇場に向かうことをお勧めする。