2013/10/15

昨晩、山形映画祭より帰還。幻灯上映とディスカッション、任務は無事に遂行したが映画はいつもより観られなかった。以下は山形で観た作品ベストスリー。

第1位:『殺人という行為』(ジョシュア・オッペンハイマー)は中央公民館の大ホールを朝10時から満席にし、今回のヤマガタの空気を支配した一本。ホロコーストであれポル・ポトであれ、大量虐殺はいずれ露見すると思いきや、虐殺した側が勝利したまま未だお咎めなしという極限のおぞましい例がインドネシアの1965年政変。虐殺者が今も共産主義者を抹殺した過去を武勇伝として誇るのを知った映画監督ジョシュアは、彼らに再現映画を作ろうと持ちかけ、かくして企画は成立してしまう…。そのアンワルという男の、まるで自覚のなさそうな表情が怖い。その映画内映画は、ギャングや青年団を名乗る殺人者たちの世界観に従って進む。集団には、上島竜兵みたいなイエスマンもいれば、ストーリーに関係ないマツコ・デラックスみたいな奴もいて…。殺戮、殺戮、時々女たちの腑抜けたダンス、そしてまた殺戮。彼らなりの「美しいシーン」がはさまれるが、その感性の安っぽさがまた強烈だ。やがて観客は気づくことになる。彼らの抱いている殺しの「美学」が、明らかにギャング映画に由来していることに。映画館の付近でダフ屋などをしていたチンピラにとっては、映画こそが生きる歓びである。だから、映画の敵は俺たちの敵、アメリカ映画の上映に反対する共産主義者は殺さねばならない(!)。ここで、虐殺のロジックの背後に「映画」という主題が浮かび上がってくる。映画よ、何ということをしてくれたのか…。

第2位:クリス・マルケル特集より『ペンタゴン第六の面』(1968年)。ペンタゴンの周りに集結するベトナム反戦学生たちと機動隊の対峙。ペンタゴン突入の瞬間を追いかける、マルケルら撮影隊の敏捷なカメラワークにただしびれた。映画集団SLONと『現認報告書』の小川プロは、互いを知らずして見事に響き合っている。あとマルケル特集では『チリからの報告:アジェンデは何を語ったか』(1973年)に感激。サルバドール・アジェンデの映像は、ピノチェト政権に破棄されてもうチリには現存していないそうで、動くアジェンデを観るのは初めてだった。ミゲル・リティンのインタビューを受ける彼は、もう死を覚悟していた。泣けた。

第3位:審査員作品『YOUNG YAKUZA』(2007年)。このドキュメンタリー・ドラマ、ニホンにハマり過ぎたジャン=ピエール・リモザンの究極のわがままだろう。つまりは「ヤクザの日常、組長の生活と意見」。取材のオファーを受けてしまった熊谷組もすごい度胸。カトリックの組長、イカしてます。裁判官に「ヤクザでなくても男は磨けるはずだ」と言われ、いいこと言うじゃないかと思ったんだ!という語りが最高。撮影がジュリアン・イルシュ、音響がフランソワ・ミュジー(+菊池信之)とゴダール組スタッフだったりする。ニホンで35mmで観られるのは今回限りのはず。