2012/03/17

大雨の中を「すべての僕が沸騰する 村山知義の宇宙」@神奈川県立美術館(葉山)。今回、ハイパー芸術家たる村山の半世紀を捉える語は「沸騰」。ならば会場に入ったらいきなりボコボコ沸騰してるんだろうと思ったが、第一空間は沸騰するまでの形成の時期、仲間たちの仕事やベルリン留学の軌跡をじっくり見せていて「ちょっと落ち着けよ」と言われたかのよう。だが第二空間でついに沸騰、まず築地小劇場「朝から夜中まで」の舞台装置のかっこ良さに呆然。実物大に再現して、子どもたちの遊具として使いたいぐらい。しかも模型を二つも借りて来ているという贅沢。そして、村山らダダイスト集団の雑誌「マヴォ」全7号を、同じ号でも一部ずつではなく複数の美術館からかき集めているのもすごい。広告やら関連印刷物も合わせて、今後これだけ「マヴォ」をたくさん見られる展示はないだろう。「猫と税金」という芝居(なのか?)のイラストも楽しい。重い課税を告げられた猫たちが前足をあたふたさせて驚いている。映画について言えば、村山が手がけた葵館(東京赤坂)の抽象デザインあふれる内装にほれぼれ。こんな突飛な建物が、大正期の街角に突如現れたなんておよそ信じがたい。映画を観なくても、行って見物するだけで楽しそうだ。そして第三空間のいちばん奥に、待ってました、児童向けの仕事。「三匹の小熊さん」の原画はもちろん大量の挿絵があったが、1930年代の村山は左翼活動で投獄&出獄の繰り返しで、そんな合間に子どもたちのために愛らしい動物どもを描きに描いていたのかと思うと泣ける。最後の第四空間には、東京シネマの産業教育映画『鋳物の技術 キュポラ熔解』(1954年)のアニメーション部分の原画があり、実際の映画では線画風のシンプルな動画なのに原画はこんなに丁寧に描き込んでいたのか、とその律儀さに感服した。

「朝から夜中まで」の舞台装置模型