2012/01/23

桃まつり試写@映画美学校。全9本のうち3本。『帰り道』(竹本直美)。都会から田舎にふらりと戻り、懐かしい草むらで小学生時代の自分を発見する女。不満らしい不満はないが、安定した画面に充足している感じがややもったいない。『フィガロの告白』(天野千尋)。男子中学生4人組が、それぞれ好きな女子に告白する羽目になる。全員玉砕かと思いきや…。そのラストシーンは心底がっかりしたのだが、そこ以外は本当に素晴らしい。最後まで4人組のストーリーで押し通しても良かったのでは?と思えるぐらいみずみずしいアホガキたち。「すべての中3男子はアホ」テーゼよ永遠なれ。『the place named』(小森はるか)。新学期を迎えようとする教師の姿と、演劇の本読みをする人々が交互に現れる。戸惑いも感じる構成だが、作り手に迷いがなく、決然とした作品であることは確か。もはや表現文法としての「映画」を前提としない世代の登場だ。

ブレーズ・サンドラール「パリ南西東北」読了。パリの高速地下鉄(RER)に乗ると、いわゆる地下鉄より遠くの町までつながっているので、「マッシー=パレゾー」とか「サン=カンタン=アン=イヴリーヌ」とか聞き慣れない長い地名に出くわす。初めてトウキョウに来た外国人が「中央林間」とか「南栗橋」(半蔵門線の乗り入れ先終点)とか言われても分からないのと同じだ。戦後間もない頃にあって、そんな郊外のありようを見定めようとする重々しいドキュメントが、サンドラールと、彼がその文章を捧げた写真の撮影者ロベール・ドアノーの望んだ行為だったとは。そして、希望なき郊外(特に「北」の)に向けられたサンドラールの痛罵は、小説と同じくここでも強烈な魅惑を放つ(ドアノーについても、あの洒落たパリ写真の原点にこれら郊外写真があったとは発見だった)。さらに、その「悲劇」の先に見える「ヒロシマ」。パリを愛することはたやすい。だが、これを読んでまだパリを愛せるかどうか、それを各々に自問させる一冊でもある。