2012/01/09

行かねば、行かねばと焦っていたがついに行けた「ベン・シャーン クロスメディア・アーティスト」展@神奈川県立近代美術館(葉山)。20年前に東京でシャーン展が行われたそうだが、その頃はシャーンの名さえ知らなかった。だが、若き粟津潔和田誠が崇敬した画家で、ブックデザインや公共ポスター、レコードジャケットまで手がけていたとあっては、今の私には逃してはならぬ展覧会。いざ心を決めてみれば葉山なんて遠くない。バスは海岸通りをゆっくり進む。潮騒の聞こえる美術館は、外にいても気持ちがいい。

名もない人間たちの、太くて静かな存在の重み。和田誠に対するシャーンの影響は、あの「和田誠タッチ」の画風が生まれる前の作品に色濃く出ていることが分かる。「日本の映画ポスター芸術」の出品作で言えば「アメリカ映画史講座」シリーズの4点がそれだろう。あと、シャーンの作品では書き文字の美しさが格別だ。アルファベットのさまざまなタイポグラフィはもちろん、ユダヤ人としての出自に基づくヘブライ文字にも魅入られる。その意味で、陶然とさせられたのが、第五福竜丸事件を題材とするシリーズの一枚に書かれた「焼津漁港」の4文字だ。理解しないはずの漢字を、画像としてここまで精緻に書こうとするシャーンの誠実さに打たれる。

美術館を出ると、ちょうど海に夕日が沈むところだった。みんなデジカメや携帯電話を水平線に向けている。学生時代からお世話になっている渋谷の画廊喫茶の店長さんとばったり出会った。時間があれば川喜多映画記念館も回ろうと思ったが、さすがに無理だった。新宿ベルクに寄ってから帰る。