2011/09/30

夕方、銀座の若山美術館で「小野佐世男展」のヴェルニサージュ。「ヴェルニサージュ」って言葉、いつ使っても気恥ずかしいけど。この漫画家の存在は、10年ほど前、戦時中に文化工作のためジャワ島へ派遣された人として最初に知ったのだが、いざ職場に戻ってみると小津安二郎『淑女を何を忘れたか』のポスターに「Saseo. O」のサインがあり、「ああっ」と気づいたのだった。今回のポスター展でもこの一枚は欠かせないし、作風を知るために伺ってみたが、ご子息の小野耕世さんがバンドデシネの研究家という事情もあるのか会場にはフランス人が多かった。

とにかく小野佐世男が他の画家と一線を画す点は、竹久夢二中原淳一岩田専太郎の「女性美」とは違い、豊満でむちむちした女性しか描かなかったこと。このゴージャスな感じは1930年代の日本女性のマジョリティ、そして当時の男性が求めた女性像とも程遠い資質であろう。これに比べたら小島功(「ヒゲとボイン」)なんて慎ましいもんだ。そしてジャワでも現地の女性をスケッチしていたようだが、一方で仕事として日本人兵士なんかを描くのは全然楽しくなかったのではないか。戦後、これからマリリン・モンローを取材するという日に心筋梗塞で急死してしまった、この漫画家の無邪気な反時代性に敬意を払いたい。