詰将棋カフェ

ジャン=フランソワ・ロジェさんはジョン・ランディス特集についてこう言った。「これこそフランス人の好みなんだ。フランス人は、自分らの国にはない純粋な娯楽を求めてどの時代にもアメリカ映画を好んできた」。ああなるほど、と思ったのは、ここ20年ほどのニホンのアニメ文化に対するフランス人の嗜好もそれに近いと思ったからだ。彼らは、日本社会が文化に対して容認する一種の子どもっぽさに敏感に反応したのではないか。かつてはヨーロッパの街角の店に並ぶ日本アニメのビデオを興味津々で見ていたものだが、今は当たり前になりすぎて気にもならない。朝になれば「プリキュア」もどきのフランス=カナダ合作アニメが毎日流れている。これもやはり自分らになかった文化への渇望なのではないか。これでいいのかなと思う一方、貪欲なのは最終的にはいいことかも知れぬ、とも。少なくとも、これからも(アメリカ以上に?)アメリカ映画がたくさん観られる国であってほしいものです。

フランス国立図書館の視聴覚部を訪問。映像課長のアラン・カルーさんに概要の説明を受ける。この国は法的納付制度が徹底しており、映画はCNCアルシーヴ、テレビとラジオ番組はINAが納付先と決まっているが、ここにはそれ以外の全映像作品が納付される。巷で流通するDVDだの音楽CDだの政府機関のビデオだの、とにかくフィルムでないもの全部。アラン・レネじゃないが「世界のすべての記憶」ををどう処理するかを具体的に考えている場所なのだ。こりゃたまらん、とだだっ広い映像閲覧室を見て思わず日本語でつぶやいてしまった。

夜、また都心のカフェでフランス将棋連盟の水曜例会。主力プレーヤーは、カンヌで開催中の世界のゲーム祭りに参加中のため不在とのこと。今日の皆さんは主に詰将棋の検討に熱が入っている。彼らにとって、日本で出版された将棋の本は貴重なようである。帰国したら詰将棋の本を日本から送ることを約束して別れた。