2014/01/09

孤独に、勝手に、独断で、ひっそりと選ぶ2013年映画書ベストテン。例年のことですが、いまだ読めていない本だらけで網羅性はありません。また、主題性と着眼点に重きを置いた選考です。

1 蓼科日記 抄(「蓼科日記」刊行会編)
2 ルイス・ブニュエル四方田犬彦
3 あかんやつら 東映京都撮影所血風録(春日太一
4 不眠の森を駆け抜けて(白坂依志夫
5 森崎東党宣言!(藤井仁子編)
6 ファントマ―悪党的想像力(赤塚敬子)
7 帝国日本の朝鮮映画(李英載)
8 映画宣伝ミラクルワールド(斉藤守彦
9 暗黒映画入門 悪魔が憐れむ歌(高橋ヨシキ
10 あきらめない映画 山形国際ドキュメンタリー映画祭の日々(山之内悦子)
次点 大阪に東洋1の撮影所があった頃
次点 建築映画 マテリアル・サスペンス(鈴木了二
次点 モンスター大図鑑(ジョン・ランディス

企画賞:NOUVELLE VAGUE 山田宏一写真集
企画賞:サウンドトラック ディスク・コレクション(馬場敏裕監修)
企画賞:映画に耳を(小沼純一

全体として、戦後日本映画を本格的に掘り下げた力作が目立った。まずはあの膨大な「蓼科日記」を小津的な文脈にまとめ上げた1位の仕事に全面的に敬意を払いたい。3位は、インタビュー力においても筆力においても脱帽。時代劇の撮影所というこれ以上ない濃密なコミュニティを編年体で描く、その文体の力強い透明さが素晴らしい。また、脚本家の明晰な知性と狂気の麗しい同居を見せてくれたのが4位。この内容にして1200円という破格の値段もこの本の思想だろう。あと「ユリイカ」 2013年11月臨時増刊号「総特集 小津安二郎」も、忘れることのできない不穏な一冊となった。

さて6位は、もともと修士論文を単行本向けにリライトしたものだというが、調べてみたらこんなに面白かった!という研究者ならではの喜びが見える(後にこの本の最後で紹介されていたファントマ狂いのベルギー人エルンスト・ムルマンが監督した「ムッシュファントマ」をネット上で観たが、病身の最後の望みとして作ったとは思えぬ微笑ましさで、やはり自主映画ってのは洋の東西を問わないねえと再確認)。7位は、日帝支配下の朝鮮映画と1950年代後期の韓国映画が、イデオロギーの枠組みにおいて実は地続きであるという分析だが、その両者をともに斬る様がまさに快刀乱麻。日本語が母国語でないことが、かえって文章の切れ味につながっている。8位は、東宝東和や日本ヘラルドのワルノリ宣伝の時代を描き出した、みーんなワクワクして待ってた本。実際かなり売れていると聞く。10位は、1989年の第1回以来、山形国際ドキュメンタリー映画祭の通訳者として携わってきた方の著書。こんなに個人的に知ってる人が多く出てくる本もなかなかないが…。それはともかく、この本のいちばんの価値は、映画祭という場が「感情の共同体」であることを率直な筆致であぶり出したところだろう。

そして、空前絶後ブニュエル本となった2位。まず、あの有名なポートレート写真とともに読者を快く途方に暮れさせてくれるこの重々しい書影に敬礼。しかし読んでみると、この著者のどの映画書よりも、映画作家の研究書として正統的だ。一体どこから読んだらいいのかと思ったが、実際どこから開いてもいい。どのページも、ぐつぐつと、いやブニュブニュとマグマが煮えたぎっている。戦後のメキシコ映画界からブニュエルのメキシコ時代を眺めた視点が新鮮だ。

未読のままで特に気になっているのが、「果てしなきベストテン」「映画人・菊池寛」「スティーブン・スピルバーグ論」「カフカと映画」「アニメ・マシーン」「戦後「忠臣蔵」映画の全貌」などなど。