2013/10/23

25日に東京国際映画祭で上映される『東京オリンピック』(1965年)は、IOCの公式オリンピック記録映画復元プロジェクトでデジタル復元された一本。旧知のフリーランスの映画アーキヴィスト、エイドリアン・ウッドさんが主導した仕事である。むかしこの映画を初めて観た時は、市川崑らしい遊びの表現は楽しめたという程度の感想しかなかったが(マラソンの補給所でジュースを3杯飲んだ選手はよく覚えていた)、今回はリラックスしてあらゆる細部を味わうことができた。若い人から言われてなるほどと思ったが、いまスポーツを映像で観るという行為は、テレビの大半のスポーツ実況でも明らかな通り、その観方まで強制される形でしかなされ得ない。しかし、この『東京オリンピック』にはそれがない。作った市川崑たちにもかなりの裁量があったろうが、どこをどう楽しんでも構わないという意味で、観客の側にも大きな裁量があったのだ。私はその自由を楽しんでいたのかも知れない。そして2020年のオリンピック映像にはそれが期待できるだろうか。

市川を讃えるのも大切だが、それだけでは足りない。この映画には大量のニュース映画キャメラマンが動員されているが、1964年の日本のニュース映画の水準がいかに高かったかがよく分かる。決定的なもの、撮るべきものを充分に撮り、さらに撮れれば幸運という映像にまで恵まれている。あの巨大な祭典の中で、別々のキャメラマンが撮っただろう映像が編集で見事につながっている。復元については、とりわけ音の復元に注目した。市川がこだわった、時には人工音まで入れたらしい音響効果が抜群に分かる。大スクリーンでないと価値が激減するこの映画は、ぜひこの機会に観ていただければと思う。