2013/10/19

こんなに濃密な2時間など、そうあるものではない。東京国際映画祭日本アニメーションの先駆者たち〜デジタル復元された名作」@シネマート六本木1。デジタル復元で甦った政岡憲三『くもとちゅうりっぷ』と大藤信郎の『くじら』『幽霊船』を、復元の最新技術の丁寧な解説、神戸映画資料館が今年発掘した大藤作品の上映、そして山村浩二さんのトークとともに味わうというゴージャスなセッション。『くもとちゅうりっぷ』では白黒のグラデーションの中にきらめく光の表現に、そしてこれまでネガ褪色のため緑色に偏ったプリントしかなかった『くじら』からは、本来の鮮烈な青が現れたことに感激した。縦縞のすりガラス(山口勝弘のヴィトリーヌと関係があるのだろうか?)を使った表現も、スクリーン上に改めてくっきりと浮かび上がった。そして、神戸映画資料館発見の『のろまな爺』と『竹取物語』テストフィルムは、まるで神の配剤であるかのように、デビュー作と未完の遺作という信じ難い組み合わせである。3年前、『竹取物語』のフィルムは存在しないと見越して、現存する数少ないセル画からの動画再現を山村さんに依頼し、セル画の分析作業も含めて約2分の映像を制作していただいた。だから今回のテストフィルム発見は青天の霹靂だったが、いざ上映してみて、山村さんのお仕事が大藤の意図と見事に合致していたことが判明した。鳥肌が立った。

まず何より大切なのは、生前は国内でまともに評価されず、海外の映画祭で認められることに心の充足を見出していた大藤の映画が、他界から半世紀を超えて、いま日本最大の、国際的な映画祭で喝采を浴びているという事実だ。それは間違いなく、泉下の大藤が望んでいることだろう。そして会場では、政岡・大藤両作家のご遺族の対面も実現した。約80年前、切り絵アニメーション専門だった大藤は、日本にセルの技術を導入した政岡に学び、二人は一緒に作品を完成させたこともあった。その後は対照的な道のりを歩んだが、この二人の作家がいまこうして同時に顕彰され、それぞれのご遺族とともにそれを分かち合っている。こんなに幸せな上映は、私の経験でも数少ない。