2013/09/20

ペコロスの母に会いに行く』(森崎東)。認知症の母親と、中年の息子と、そのまた息子の間に流れる淡々とした、笑いと悩みの時間。それだけで、もう昔の森崎東ではないのかと考えそうになるが、そういう私自身の見方が安易だった。母親には、もう死んでしまった夫や幼なじみの姿が見えている。私たちは、亡くなった人が目の前に現れるとついそれを「幻」だと理解してしまうが、この映画が何よりも突出しているのは、そんな記号めいた約束事を全部やめてしまったことだ。結末のランタン・フェスティバルの場面、眼鏡橋の上で、母親は懐かしき死者を迎え入れる。彼らはひとりひとり現れるが、息子が見つけるのは、母が彼らと静かに立ち並ぶ姿である。このショットで涙が止まらなくなった。そこには喪失の香りも漂っているが、「幻」なる曖昧な理屈を取り払って、彼らはそこに「居る」。それは、彼女のヴィジョンを私たち観客が受け入れる瞬間でもある。赤木春恵がただ素晴らしい。