2012/07/01

展覧会メモ。没後3年「マクリヒロゲル、粟津潔の世界」@ヒルサイド・フォーラム(代官山)。金沢21世紀美術館に移管の後、なお粟津家に残るポスター群を一挙に公開。なんと全作品露出展示。隙なし、気合い満点、迫力の壁がそそり立つ。2階に上がると原画も多数。会場前で、粟津の残した図像を使ってシルクスクリーンでTシャツ制作もやっていて楽しそう。

「トーマス・デマンド展」@東京都現代美術館。「浴室」とか何げない空間を紙で実物大に造形して写真に撮るというこの人、東京国立近代美術館「ドイツ写真の現在」の時から気になっていたが、アメリカ大統領執務室とか鍾乳洞とかコピー屋さん(キンコーズみたいな)とかも平然と作っていて、やっぱり壮大なユーモアに包まれたアーティストだった。もっとスタティックな作風に徹した作家かと思っていたのだが、案外と「映画濃度」が高い。紙で作ったのに本当に動いている「下りエスカレーターの乗り口」の映像は、なんと35mmフィルム映写。小窓からちゃんと映写機の駆動も見える(過去例があるからそうしたんだろうが、開館中完全フルタイム&エンドレス映写…メンテナンス大変そう)。精度の高いビデオ撮影による「パシフィック・サン」は、大揺れの客船のレストランでテーブルや椅子(もちろん紙製)が左や右に滑ってゆくのを緻密なアニメーションにしたもの。ハリウッドの下請けをしている会社のアニメーターたちにかけあって、最初は2か月で終えるつもりだったが、一秒12コマでは不可能と見抜いて24コマに変更、さらに3か月半の撮影期間を加えたのだという。クレイジー。そして、アーティスト・トークのビデオによれば、一瞬だけ後方に現れる黄色い清掃用具に機敏な動きをさせたのは、「フレッド・アステア」のつもりだそうだ。

写真作品では、公文書館の棚を律儀に紙で作った「アーカイブ」に笑った。ようやる、というのは私にとって美術作品への讃辞だったりする。