2012/05/14

フェルナン・ブローデルにもわりと平易に読める邦訳書があるんですねえ、岩波同時代ライブラリー「都市ヴェネツィア」読了。ブローデル晩年の本であり、当然エッセー的な記述ではあるが、10世紀あたりからのヴェネツィアの盛衰が重層的に読み解かれる。何しろ千年スパンなので、現在この街がイタリアなる国に属していることなどほんの小さなトピックに見えるし、観光客は増えたが生彩のない時代だとあっさり断じるから面白い。フォルコ・クイリチの写真つき(この人はドキュメンタリー監督と思っていたが写真もやるのか)。

昨日は、創立60年を迎えた東京日仏学院で、60年前の映画ということで選ばれたジャック・ベッケル『レストラパード街』(1952年)。基本的には戦後派の若い夫と妻の痴話喧嘩だが、二人の感情のゆらぎがずっと画面を疾走している。それにしてもダニエル・ジェランを見るといつも佐田啓二を思い出してしまう。そして今日は講義の後、アンゲロプロス追悼上映『アレクサンダー大王』@シネマブルースタジオ@東京芸術センター、へ行ってみた。共産主義社会の理想と崩壊をここまでシンボリックに彫り込むことに成功した映画は(ベルトルッチの『1900年』を例外として)ほとんどないだろう。やっぱり配給会社が使う民間のフィルム倉庫では、30年も経てばプリントは褪色してしまうのだと分かった。すでに行った何人かの方から聞かされてはいたが、今日もお客は9名。この特集は夏まで続くようだが、8月の『旅芸人の記録』はみんなで人をがんがん誘って「ブルースタジオ満席計画」を実行しよう!