2011/12/05

ニーチェの馬』@松竹試写室。哲学者ニーチェトリノの街で鞭打たれた馬を抱きしめたまま昏倒したという「トリノの馬」という逸話がベースだが、これだけで長篇映画になるはずはなく、舞台は結局ハンガリー(たぶん)の荒野だった。当然ニーチェも出てこない。砂嵐の吹きすさぶ、人里離れた一軒家に住む父と娘、そして荷車用の老いた馬。まず、その砂嵐がとんでもない。巨大扇風機をいくつ使ったらこんな風が吹くのか。ストーリーは、井戸の水に頼り、ゆでて塩をふっただけのジャガイモで食いつないでいた父娘の生活がゆっくりと崩壊してゆく6日間、それだけだ。馬が先に人生を諦め、父と娘がそれを追う。それが、タル・ベーラの手にかかればしっかり2時間半の映画になってしまう。しかしタル・ベーラの映画は、超長回しのショットだけでできているのに、体感的にはそれほど長くない。何かが始まって終わるまでの一シーンで、平然と10分か20分ぐらい進んでいたりするから、実は「速い」のだ。何度か画面が真っ黒になるが、どの真っ黒も、じっと見つめたくなるいいシーンだ。