2015/02/08

読まねば選べず、読んでばかりでも選べない、と諦めて、そろそろ今年も、孤独に、勝手に、独断で、ひっそりと2014年映画書ベストテンを選びました。例年のことですが、網羅性はありません。また主題性と着眼点に重きを置いた選考です。

1 スクリプターはストリッパーではありません(白鳥あかね)
2 映画の奈落(伊藤彰彦
3 夢を喰らう キネマの怪人・古海卓二(三山喬
4 映画術 その演出はなぜ心をつかむのか(塩田明彦
5 クリス・マルケル 遊動と闘争のシネアスト(金子遊・東志保編)
6 伝説の映画美術監督たち×種田陽平種田陽平
7 映画音響論(長門洋平)
8 ヒッチコックエリック・ロメール他)
9 岡本喜八全仕事データ事典(寺島正芳)
10 土木映画の百年(土木学会土木技術映像委員会編)

次点 戦前日本SF映画創世記(高槻真樹)
次点 80年代映画館物語(斎藤守彦)
次点 映画系女子がゆく!(真魚八重子
次点 岳人冠松次郎と学芸官中田俊造 展示解説書(北区飛鳥山博物館編)
次点 ピンク映画史(二階堂卓也)
次点 ヌーヴェル・ヴァーグの全体像(ミシェル・マリ)

企画賞 フィルムは生きている(手塚治虫)<復刻に対し>
企画賞 中島春雄怪獣写真集(中島春雄
企画賞 吉祥寺バウスシアター 映画から船出した映画館(ラスト・バウス実行委員会編)
企画賞 1969―新宿西口地下広場(大木晴子・鈴木一誌
企画賞 依田義賢 人とシナリオ(依田義賢

ここ20年ほど、時代を築いた映画スタッフのインタビュー本はいくつもあったが、1位はその中でも「映画の現場」を女性の眼から射抜いた得難い書。そしてオトコのわがままとロマンティシズムを知り尽くし、その限界まで見据えた上で見守ってきた人間の優しさの書。3位は、竹中労の「日本映画史縦断」で喧伝された伝説のアナキスト監督がにわかに甦った。竹中の祝祭的スタイルを超えて、自らがその監督の孫であるというパーソナルな決着への志向と、評伝としての客観的な分析性がハーモニーを見せる。6位はそれ自体がひとつの芸術体系ともいえる映画美術の思想を現在へ継承しようとした粘りの一冊。まさに保存版。9位は開いてみて途方に暮れる。例えばビブリオグラフィの一冊一冊にすべて解説があり、つまりは全部読み込んでいるのかと。

次点もたくさん選ばざるを得ない。「80年代映画館物語」は、巻末の膨大な都内主要館番組表が圧巻で、資料性も抜群。「岳人冠松次郎と学芸官中田俊造」は文部省山岳映画の大いなる時代に徹底調査で迫った一冊。「依田義賢 人とシナリオ」は、コッポラとの共同企画「ゲーテの『親和力』による翻案脚色の4篇のオムニバス」にとにかく驚かされた。「ピンク映画史」は、タイトルに似合わず著者の体臭がするところが持ち味。読み口は軽いのになかなか読み終わらない本というのがある。「いつまでもダラダラ読んでいたい」という褒め方はできないが、終わってみて「俺はこの本と付き合ったよ」という気だるい充足感は味わえる。ただ人名索引がほしかったし、編集側はもっと細部に介入すべきだった。あと日本初のジャン・パンルヴェ論を展開した三浦哲哉「映画とは何か」にも敬意を。

未読で気になっているものは「トリュフォー 最後のインタビュー」「曽根中生自伝 人は名のみの罪の深さよ」「マンガと映画」「映画の生体解剖」「メロドラマを読む」「ミッキーマウスストライキ! 米国・アニメ労働運動100年史」「敗戦とハリウッド 占領下日本の文化再建」「〈喜劇映画〉を発明した男──帝王マック・セネット、自らを語る」などなど。まだ色々忘れている気がします。