2015/01/15

ジュネーヴに到着。パリを縮小して静かにして清潔にしたような街です。ブラックムービー・インディペンデント映画祭の特別企画として行われる「日本アート・シアター・ギルド映画ポスター展」は、ローヌ河の中洲にあるこの芸術会館が会場。ギャラリー、芸術専門書店、バンドデシネ展示室、レストランなどが入っています。企画者は、映画祭のポスターやウェブサイトも請け負っている地元のグラフィック・デザイナーたちの組織。ATGポスターとは素晴らしい目のつけ所ではありませんか。

2015/01/19

昨晩、こちらでの全仕事終了。正月返上で講演会原稿を書いた甲斐がありました。さすがに疲労困憊して、DJのガンガン入る映画祭公式の終夜バーには参上せずバタンキュー。

「スイスデザイン」と言われるだけあってイベントの宣伝デザインもフランスなんかよりずっと上、グラフィックアートの学校も多い。映画祭の中でポスター展をやりたいという発想もスイス的かも知れません。

2015/01/21

映画祭参加者から映画アーキビストに戻って、最終日はシネマテーク・スイスを訪問。アラン・タネールほかスイス映画の革新を世界に知らしめた批評家フレディ・ビュアシュが45年間率いた(館長職は退いたが今もご存命)やや神話的な香りのするシネマテーク

まず、レマン湖畔のローザンヌから内陸に数駅入った丘の窪みにある、建設中の保存センターへ。2013年に半分完成したので所蔵フィルムや資料を三か月かけて搬入したものの、連邦政府の都合により残り半分の完成は2018年まで待たされることに…。「ここ、今は事務室にしてますけど、将来は図書の閲覧室になるはずです」。皆さん、ピカピカの建物をせまぜましく使って仕事をしている。

「これ、ダグラス・サーク旧蔵品なんですが、何でしょうか?」。美しく彩色された四角い和凧が8点あった。『人生の幻影』のあのベランダから凧揚げをしたわけでもなかろうが、眺めて楽しんでいたのか。あと日本語で書かれたポストカードが一枚、「何と書いてありますか?」。この秋ダニエル・シュミット監督を招いて映画祭を開催するのでどうぞよろしくというアテネ・フランセ文化センターの残暑見舞いだった。つまり1982年。ひと通り説明をすると、皆さん一同「ああ、なるほどね!」。

上映活動は、ローザンヌ市内の高台の公園にある歴史的建造物を使って行っている。ローザンヌは土地の起伏が激しく、国鉄駅前からいきなり坂道が切り立っている。遠い対岸の山々が神々しい。ゴダールの『フレディ・ビュアシュへの手紙』にある通り、真冬であっても「青と緑の間にある」街だった。

2014/12/27

2014年の映画の展覧会ベスト5を、誰に言われてもないですが勝手に発表します。フィルムセンターの企画は除外します。
1 ティム・バートンの世界(森アーツセンターギャラリー)
2 映画をめぐる美術(東京国立近代美術館
3 松本瑠樹コレクション ユートピアを求めて(世田谷美術館
4 野口久光 シネマ・グラフィックス(京都府京都文化博物館
5 淀川長治 映画の部屋(鎌倉市川喜多映画記念館)
次点 岳人冠松次郎と学芸官中田俊造(北区飛鳥山博物館)
次点 東欧アニメをめぐる旅(神奈川県立近代美術館葉山)
名実ともに世界水準の企画である「ティム・バートンの世界」が日本に来たことの意義は大きい。「映画の展覧会」という分野のマイナーさを苦もなく突破し、新時代を画したと言っても大げさではない。「映画をめぐる美術」は映画の側からは驚くほど注目されなかったが、現代美術作家と美術館が映画に対してできることを追求した結果として、より正当な評価を受けるべき。正直に言うと、興奮させられる作品もあれば、まったく関心の抱けない作品もあった。所詮、住む世界は違うのだ。それだけに、映画の側からのしなやかなレスポンスが欲しかった。さて、印象の強烈さからいえば今年随一だろう「ユートピアを求めて」は、松本瑠樹コレクションが日本の宝であることを再認識させてくれる。初期ソビエト映画のポスターだけではない、その全貌が明らかになるのはいつの日だろうか。「淀川長治 映画の部屋」は、まず映画評論家にまつわる展覧会という企画が先駆的。さらに「読ませる展覧会」としても成立している。「岳人冠松次郎と学芸官中田俊造」は主題として激しくシブいが、戦前の山岳ドキュメンタリーへの調査の精密さが一目で分かり、今年の隠れた名企画だろう。カタログもおすすめ。「ミシェル・ゴンドリーの世界一周」(東京都現代美術館)は参加型の展覧会として画期的だが、展示としてはやや弱いか。一方、実はなかなかの迫力があったのが飯田橋ギンレイホール主導の「名画座主義で行こう」の展示(飯田橋ラムラ)。映画館写真も見逃せないが、何といっても戦後復興期の国産映写機の威容が素晴らしい。あと「水木洋子展」(市川市文学ミュージアム)は、いつもながら地元での調査研究の深みが出ていて好印象を持った。残念ながら今年は「恵比寿映像祭」は逃してしまった。展覧会で観た映像としては、フィオナ・タンの個人的映像アーカイブ論『影の王国』(東京都写真美術館「フィオナ・タン まなざしの詩学」企画内上映)の優しさがいちばん心に沁み入った。